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2007年 02月 06日
小包ひとつ
宅配便の運転手から電話が来た。
違う部屋番号あてに小包が来ているのだが、表札には苗字しかなく、
しかも不在で確認できなかったので、不在票も入れずに持ち帰ったという。
送り主の名を確認しなかったが、誰なのかは察しがついていた。
宛名は正しいので、届けるように頼むと、しばらくしてやってきた。

日曜日の朝に学生時代の後輩から電話がかかってきた。
越後湯沢に来ているのだが、何年も帰っていない
自分の実家の番地が思い出せないので教えてくれという。
どうしたのだと聞けばスキーに来ているという。2度と行かぬと言い切った奴が
いったいどういう料簡かと訊ねると、同行の仲間がスキー中で、
本人は「聞き酒」をしているのだという。なんとも奴らしい話。
たまにこちらに帰省しても、実家に帰らずに知り合いの家を
泊まり歩く奴だが、殊勝にも実家に何か送る気なのだろう。
話によると、この暖冬にもかかわらず、越後湯沢の雪の量は多いらしい。
東京を出て長いこと続いた冬枯れの車窓も、
新幹線のトンネルを通り抜けた途端に銀世界に変わったという。
川端康成が書いた通りやなあと、お互い電話越しで頷いた。
あとでメールで写真を送ってくれと頼んで電話を切った。
しばらくすると、雪景色の温泉町の、やや粗い小さな写真が
送られてきた。デジカメを買おうかなあと、文字が添えてある。
「ええことや」、と返信しておいた。

さて、届いた「柿の種」の箱は、小さいながらも重みがある。
以前、博多支店で勤めていた頃には、大手焼酎会社の
工場限定の麦焼酎の小瓶セットを送ってきてくれた。
市販品とは格が違う上品な香りと味わいに酔いしれた。
惜しいので、残り1本の封が未だに切れていないくらいだ。
さて、今回はいったい何を送ってきたのだろうかと、封を切って驚いた。
コシヒカリ…、それも南魚沼産のコシヒカリと書いてあるやないか。

すぐに電話をしてみたが、留守番電話サービスの無機質な声が電話に出た。
お礼の言葉を吹き込んで電話を切って、もう一度お米の袋を見つめた。
上等な紙に包まれて、もっともらしい文字で印刷が施してある。
専用の紐が付いた袋を開けてみると、きれいな整った米粒が光っている。
思わずため息が出る。

「えらいことや」

米にはあまり贅沢をしないので、家では初めて食べることになるのだ。
この時点で、今日の晩ご飯のメインディッシュは「ごはん」と決まった。
焼酎と違ってお米は保存に限度があるので、有り難く取っておくわけにはいかない。
いつものお米はおいておき、鮮度のいいうちにすっかり頂いてしまわねばならぬ。
さて、現金なもので、高価なお米を前にして心構えが違う。米を研ぐだけでも緊張する。
いつもなら、ざっざっと研いで、研ぎ水を勢いよく流してしまうのだが、
丁寧に丁寧に静かに研ぎ、洗い、一粒たりともこぼれ落ちぬように、
慎重に研ぎ水を流し出す。
電子ジャーのおかまの目盛りにぴったりと合わせて水を入れる。
浸す時間にも気を配るべきであり、いつものように不精をして
すぐにスイッチを入れるなど論外である。しばらく浸けおこう。

椅子に座って一息つく。肩が凝ってしまったような気がする。
南魚沼産コシヒカリは、こういう小心者には向かない代物だと実感する。
黙っていてもいろいろと思いがめぐってしまう。どんな香りがするのだろうか、
どんな味がするのだろうか、どんな歯ごたえがするのだろうか、
思い浮かべただけで、口中が涎で満ちてくる。
この雑文をしたためている間にほどよい時間が過ぎた。
では、スイッチを入れていまから炊きあがりを待とうではないか。

そういえば、私から聞いた番地を記して、奴はもう一袋を送ったはず。
ご実家のお父さん、お母さんは、もう口にされたのだろうか。

「ええことや」
あの時返した言葉が頭をよぎった気がした。

小包ひとつ_e0037563_1936291.jpg




2007年2月6日 京都府南部某市
コニカミノルタ ディマージュ G400
(修正加筆 2月6日20時11分)

山ほど仕事を抱えて二進も三進も行かない状況です。
でも、こういう時に限って、次々とコトノハが湧き出てくるんですよね。
おもむろに書き連ねた次第です。

さて、今夜は南魚沼産コシヒカリ! (^o^)

おっとと、スイッチ入れ忘れ。
そして、なによりおかずのことを忘れてた… (^_^;)

by photo-nupuri | 2007-02-06 19:46 | 暮らし


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